【解説】あいまいな合図は逆効果 北朝鮮情勢緊迫 – BBCニュース



ジョナサン・マーカス防衛外交担当編集委員

北朝鮮の朝鮮人民軍創建85周年を記念した砲撃訓練。写真は国営朝鮮中央通信が26日に配信Image copyright Reuters
Image caption 北朝鮮の朝鮮人民軍創建85周年を記念した砲撃訓練。写真は国営朝鮮中央通信が26日に配信

朝鮮半島情勢が緊迫するなか、英紙タイムズは今月半ば、にっこり笑う北朝鮮の金正恩氏と同じようににっこり笑う米国のドナルド・トランプ氏を描いた風刺画を掲載した。

タイムズ紙掲載の風刺画にはは、金朝鮮労働党委員長の絵の下に「行動が予測しにくく、妙な髪形の頭のおかしい奴が、巨大な戦力で世界の脅威に」と書かれていた。そしてその隣のトランプ米大統領は、米軍がアフガニスタンに投下したばかりの巨大爆弾の絵が描かれたTシャツを着ていた。Tシャツには「行った、やった、Tシャツ買った!」の文字があった。

西欧の政治評論家の多くは、トランプ氏のホワイトハウス入りを皮肉な目で見つめてきた。この漫画はその一例なのかもしれない。

一方で、北朝鮮情勢を見つめる大勢にとっては確かに、米朝両国の首脳は心配材料なのだ。両首脳ともそれぞれ、予測不能で経験不足だとみられている。両首脳とも、相手に対して舌戦を繰り広げている。そして両首脳とも、わざとかどうかは別にして、戦争リスクを高める軍事的な合図を発している。

しかし理解しなくてはならないのは、なぜ今になってこうなったのかという点だ。なぜいきなり緊張が悪化したのか。そして軍事紛争は本当に起こり得るのか。

北朝鮮による好戦的な言動は、いろいろな意味で、北朝鮮らしいと言える。何といってもつい数年前には韓国の軍艦を撃沈し、さらには韓国の島を砲撃した国だ。

そしてつい最近は朝鮮人民軍創建85周年を記念し、実弾砲撃訓練を実施した。これはつまり、ソウルは自分たちの砲弾の射程圏内にあるという、韓国への明確なメッセージだった。

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Image caption 金正恩氏とドナルド・トランプ氏は、予測しにくいという共通点がある。写真は、朝鮮人民軍創建85周年記念式典を刺殺する金氏(朝鮮中央通信が26日に配信)

しかし今回の危機で、北朝鮮政府は明らかに圧力を感じている。米政府は強力な合図を発しているからだ。しかし同時に、あいまいでもある。そしてあいまいな合図には否応なしに誤解のリスクがつきもので、それを原因とした破局的展開もあり得るのだ。

錯綜する合図

トランプ政権は一見すると、北朝鮮がミサイル発射実験を繰り返し、核実験をあらためて実施するかもしれないという現状に、強く反発している。しかし北朝鮮の動きそのものは、新しいものではまったくない。

過去の米政権も、北朝鮮の核開発問題に対応を迫られてきた。やがて米本土を射程圏内に収める長い長距離ミサイルを、北朝鮮は一貫して目指してきた。

しかしトランプ政権の対応はこれまでの政権とは異なる。危機的瞬間が近づいているというのが、現政権の認識だ。北朝鮮の技術革新の実態をもってすれば、大陸間弾道ミサイルの開発は北朝鮮の妄想に留まらず、早急に現実のものとなると、トランプ政権は確信している。

トランプ政権はさらに、北朝鮮の独裁体制を制止する鍵を握るのは、依然として中国だと考えており、それゆえに圧力を強めれば北朝鮮だけでなく中国政府へのメッセージにもなると考えている。

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Image caption 韓国も26日に南北境界線に近い北部・抱川で砲撃訓練を実施。写真は、視察する黄教安・大統領代行(中央)

これゆえに米国は、韓国に北朝鮮のミサイル迎撃を目的とした地上配備型迎撃システム「終末高高度防衛(THAAD)」を配備したし、日本の海上自衛隊とミサイル迎撃訓練を行っている。

米空母カール・ビンソン打撃群は朝鮮半島沖に向かい、潜水艇を搭載する米原子力潜水艦ミシガンが釜山の軍港にこれみよがしに入港した。

しかしこうした一連の動きは、どういう合図を送っているのか。

米国のニッキー・ヘイリー国連大使による発言が、問題を明らかに示している。

ヘイリー大使は24日、もし北朝鮮が米軍基地を攻撃したり、大陸間弾道ミサイルを発射したりすれば、米国は軍事行動でこれに応えると言明した。

しかし記者に真意を問われると、大使は金委員長に対して、核実験やミサイル発射を控えるよう促した。これによって大使の発言はあいまいになり、いったい米軍は何をきっかけに軍事行動をとるのかが不明確になった。

相手に合図を送るのは結構だが、送るのならば明確でなくてはならない。

北京へのメッセージ

中国は米国が発するメッセージをはっきりと受け取っているし、できる限り北朝鮮に圧力をかけようとしている形跡がうかがえる。

しかし、習近平国家主席の発言には、あからさまな危機感がにじむ。事態がいともたやすく制御不能になってしまいかねないという恐怖が、うかがえるのだ。

中国はもちろん、THAADの韓国配備を憂慮している。THAADの強力なレーダーが、中国の核抑止力を妨げると心配しているのだろう。

しかし米国はそれ以外にも中国に対して、周辺地域の同盟国を守るために必要なあらゆる手段を使うと表明しているわけで、それも中国にとって不安材料となっている。

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Image caption トランプ大統領と習主席(7日、米フロリダ州の「マール・ア・ラーゴ」)

こうした一連の動きとは無関係だが、中国はこのほど初の国産空母「山東」を進水させた。

旧ソ連の航空母艦「バリャーグ」の未完成艦体から作った1隻目の「遼寧」より少し大きい「山東」は、2020年ごろに就役の予定。急速に整備が進む中国海軍にとって、「山東」の完成は大きな意味をもつ。

「遼寧」は中国にとって、空母建造の「訓練」艦だった。「遼寧」を通じて中国海軍は実に多くを学んだが、本当の意味での空母打撃群を作り出し、そのために必要な多岐にわたる海軍力を統合してまとめあげるには、まだ数年はかかる。

しかしこれは自国の海域を遙かに超えた海軍力を世界に示したいという、中国の志向を示唆する動きだ。そもそも中国政府は、米海軍の先例にならっているに過ぎない。

なぜならこの北朝鮮危機で、トランプ大統領が真っ先にしたことは、空母を派遣することだったではないか。そして空母カール・ビンソンが実際に針路を変えるには、実は何日もかかったことが今では判明している。これもまた、トランプ政権の物事の進め方について、予測不能なのではないかと不安を募らせるきっかけとなった。

(英語記事 North Korea tensions: Why clarity is key to avoiding a spiralling crisis



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