「Thumper」開発秘話!遠隔地の2人が7年かけた異例づくしの開発体制 – IGN JAPAN



過去に類を見ない疾走感とサイケデリックなビジュアルで、暴力的ともいえるプレイ感覚をもたらす「Thumper」。リズム・アクションならぬリズム・バイオレンスゲームを標榜し、全世界で20以上のアワードに輝いたインディーゲームだ。2016年にPCとPS4で発売され、PSVR・Oculus Rift・Steam VRにも対応している。

内容だけでなく、あらゆる面で本作は型破りだ。本作を開発したDROOLはプログラム担当のマーク・フリューリーと、アート&オーディオ担当のブライアン・ギブソンという2人のアメリカ人によって、2009年に発足したインディーデベロッパー。本作が第一作で、Unityなどの汎用ゲームエンジンを使用せず、7年もかけて開発したのだという。

さらに、二人ともゲーム業界歴は長いものの、マークはUIプログラマーで描画プログラムの経験は皆無。ブライアンはエフェクトデザイナーで、趣味でバンド活動をやっていただけと、共にゲームの中核部分を開発した経験はなかった。そのうえ2011年からマークは妻の仕事の関係で韓国に移住することになり、大半をリモート開発ですませたのだという。

韓国のゲーム開発者会議「Nexon Developers Conference」に登壇したマークは4月26日、「Thumper Postmortem」と題して7年にわたる開発を振り返った。マークは本作の開発動機の一つに「ゲームエンジンを自分で作ってみたかった」ことをあげ、ゲーム内容に即したエンジンを自作したことが最適化に貢献し、VR対応も可能にしたと述べた。

インディーにしては珍しい内製ゲームエンジン開発

ゲームの目的はジェットコースターのようにレーン上を疾走するスペースビートルを操作して、障害物をかわしたり、コーナーを曲がったりしながら、レーンの終点に位置するボスキャラを撃破していくというものだ。プレイヤーの操作によって生じる効果音がBGMと同期してインタラクティブなサウンドとなり、独特のプレイ体験を生み出している。

もっとも当初のイメージは「キューブの組み合わせで構築された無機質な世界をスペースビートルがリズムにあわせて移動していく」というものだった。アイディアスケッチを描いたのはブライアンだ。タイミングに合わせてボタンを押し、障害物をクリアしていく要素はあったものの、カーブは直角に曲がり、スピードもゆっくりとしたものだった。

それでも本格的なゲーム開発がはじめてだったマークにとっては(当時は本業と兼務だったこともあり)、プロトタイプを作るだけでも難産だった。なんといってもゲームエンジンから自作していたのだ。そんなマークをブライアンは「超クール!」「テクスチャーがついた、すげえ!」と、大げさなほど励ましたのだという。

リモート開発の危機を内製ツールで克服

2011年にマークが韓国に移住すると、プロジェクトは崩壊の危機に瀕した。もっとも、この逆境をバネにマークは「Thumper」の開発にフルタイムで取り組んでいく。二人は時差の関係もあり、メールで進捗を報告しながらリモート開発を続けていった。ブライアンもアート制作に力を発揮しはじめ、サイケデリックな世界観を作り上げていった。

リモート制作を支えたのが、マークが自作したエディタだ。サーバにデータをアップしてURLをメールで送れば、クリックするだけですぐにデータを展開できる優れもので、このエディタを介して開発が続けられていった。中盤以降はゲームエンジンにひも付き、コースエディタもかねた統合型開発ツールが整備され、より効率的に開発が進められていった。

もっともゲームの核が固まるまで試行錯誤が続けられ、出口の見えない苦しみにおそわれたという。最大のポイントは「苦労して作ったプロトタイプがおもしろくない」ことだった。とりあえず二人は「スピード感を出す」方向をめざすことに。しかしスペースビートルが高速に移動すると、従来の「直角に回転する」仕様では操作が不可能になってしまった。

そこで生まれたのが「ブロックの角を丸めて一直線にする」というアイディアだ。そこからブロックを縦にのばし、ひねりを加え、ジェットコースター感覚を取り入れた。また、リフレクションマップを取り入れてコースの表面をなめらかにした。カーブには方向指示をおいて操作の手助けにした。こうして徐々に完成系へと近づいていった。

内製エンジンだから可能だった「選択と集中」

マークがコース制作に苦心する一方で、ブライアンもアート制作に注力していった。ゲームをサイケデリックに彩るキャラクターをはじめ、本作のユニークな世界観は、すべてブライアンの功績だった。マークは「音楽だけでなく、ブライアンがここまでグラフィック制作に才能を発揮するとは信じられなかった」とあかした。

もっとも、本作は内製エンジンが使用されているため、ビジュアルに凝るにはエンジンにそうした機能を盛り込む必要がある。これをマークは一つずつ、こつこつと実現していった。ブルーム、カラーマネジメント、コースの歪曲化、シェーダーなどだ。こうしたポストエフェクトで「Thumper」は見違えるほど美麗なゲームに生まれ変わった。

その一方で省略された部分も少なくなかった。複数のライトを用いた複雑なライティング、ノーマルマップ、パーティクルによるエフェクトなどだ。いずれも商用ゲームエンジンでは当たり前のように搭載されている機能だ。意外なことにサウンドもステレオ対応のみにとどめられている。これも「内製エンジンだからできた選択と集中」だという。

こうして開発された「Thumper」は2014年のBitSummitで初公開され、IGF2015ではExcellence in Audioにノミネートされる快挙を達成。マークはこのときの体験を振り返って「この段階での音楽は、あまり完成度が高くなかった。ただ、GDC会場でデモ出展していろんなフィードバックが得られたのはうれしかったし、自信になった」と語った。

2016年になるとリリースを前にQAが進められた。もっとも、本作はQAを外部に委託することなく、すべて自分たち二人で行ったのだという。その際に役立ったのがイベントへの出展で、実に20回以上も全世界のイベントに出展した。そこで得られたユーザーの反応を元にブラッシュアップを重ねていったのだ。この体験が非常に生きたという。

VR版の開発、そして対応機種の拡充

リリースと平行してVRへの対応も進められた。当初は「VR酔いを招くのでは」と懐疑的だったマークも、GDC China 2015の講演を聞き、考えが変わったという。速度が一定で視線の動きも少ない本作は、逆にVR酔いをおこしにくいタイトルだったからだ。最適化処理も内製エンジンだけにしやすく、最終的にPS4 Proでの4K出力にも対応している。

VR版ではユニークな修正も行われた。オリジナル版ではカメラの画角が150度に設定されていたが、PSVRの仕様で視野角が100度となり、その分だけスピード感がそがれてしまった。そこでレーンの幅を2倍にして、見かけのスピード感を向上させたのだ。ボスキャラの大きさも縦横4倍に拡大することで、圧倒的な感覚が演出できた。

開発に7年をかけた「Thumper」もリリースで一区切りがついたが、今後はHTC Viveへの対応が控えている。さらにニンテンドースイッチ版も近くリリース予定だ。今後もサポートや修正に力を入れていきたいという。講演が終了すると、すぐに多くの韓国ゲーム開発者が取り囲み、質問責めにするなど、韓国国内でも高く評価を受けている様がうかがえた。



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